昭和11年〜14年頃。日本管楽器製造所から海軍軍楽隊へ納入されたテナーサックス。明治3年の薩摩バンド発足より外国製の楽器を使用してきた軍楽隊であったが、昭和6年から始まる事変により楽器の輸入にも影響が出てきた為、昭和11年頃より軍楽器の国産化が急激に進められた。海軍の内藤清五楽長が日本楽器の大村氏に相談し、世界中の様々なメーカーの楽器を購入。吹き比べた結果サックスの場合はコーン社の物が特に優秀との事で日本管楽器製造所に同様の物を作らせた。
コーンのサックスは国内でも出回っており入手しやすかったのか、12年の元旦には新商品として広告が出されている。
テナーは10M、アルトは6Mを参考とし、マイクロチューニングデバイスやダブルソケットまで再現されている。民間向けの商品と異なり、軍楽隊用はロールドトーンホールが再現されている(ハンダ付けなので奥の音孔の物は外れてしまっている。)
海軍の要望で作られた物であるが、陸軍も使用していた。明らかにコーン6Mの形状をしているが刻印を見ると日本管楽器製である。昭和14年の12月頃より英語から漢字刻印に変わるので、写真に写る楽器も昭和11〜14年頃に製造された物とわかる。一番手前で吹奏しているのは松本秀喜氏。昭和期の陸軍軍楽隊ではこのサックスが唯一の銀メッキ楽器で目立っていた為、東條英機陸軍大将の目に留まった事があるが、英語の刻印を咎められてしまった逸話がある。
ちなみに、日本初のサックスは田辺吹奏楽器製作所の田辺鐘太郎(ショウタロウ)が昭和10年に完成させたので、紹介した海軍のテナーは国産サックスの中でも極めて初期の物と言える。